失礼いたします。「ED76109」でございます。
今回は、日本の名監督のお一人でもある「小津安二郎」氏の作品を取り上げたいと思います。
「晩春」での「スカ線出勤風景」や「東京物語」での「尾道からの東京行」など、
鉄道風景が数多く見られるのですが、スタッフのお一人である厚田カメラマンが
鉄道ファンということから、演出上で様々な配慮がなされているようであります。
1 昭和27年10月に公開された「お茶漬けの味」(松竹制作)。
この映画は、倦怠期にある夫婦が夫(佐分利信さん)の外国への転勤を巡って、
妻(小暮美千代さん)が自らの言動を省みて反省して、
再び夫婦としての在り方や愛を取り戻すという夫婦愛をテーマとした作品です。
作品の中で、妻が夫との日常生活でのギャップに不満を抱き、
神戸に住む女友達の下へ当時の「特別急行東京 9:00発 つばめ 1レ」で向かう
というシーンがございます。
乗車したのは最後部の一等展望車「マイテ39」。
心穏やかではない妻の心情を、小暮美千代さんが演じていらっしゃるのですが、
実際の「つばめ号」での撮影が国鉄から許可がされず、
セット撮影を好まない「小津監督」は知恵を絞ることに・・・。
そこで、鉄道ファンの厚田カメラマンは「マイテ39」を借り受けて、
在来のレに増結させての撮影を進言します。
結果、国鉄は「急行きりしま」の最後尾に、借りた「イテ」を浜松まで増結させて、
「つばめ」として車内撮影を実施したとのことでした。
当時の松竹のマネージャー氏のファインプレーというわけですが、
当時の「つばめ」のステータスの高さを物語るエピソードと考えました。
社会的にも多層な乗客のプライバシーを配慮するとともに、
利用客の多い列車の重要性が優先されたようであります。
2 昭和33年9月に公開された「彼岸花」(松竹製作)。
この作品にも、「佐分利信さん」が主演されています。
自分の娘(有馬稲子さん)の生き方に対して、厳しい見方をしていた父親が
周囲の人間の在り方や生き方から、次第に考え方を変えて娘の幸せを祈る姿が描かれています。
作品では、娘の結婚に大きな影響を与えた知人の令嬢(山本富士子さん)の住む広島へ向かうために、
京都から「特別急行 京都発 かもめ 5レ」の車中シーンが登場いたします。
「スロ54」らしき二等車の座席から、佐分利さんは白い上っ張りを着こなしている
列車ボーイ(当時の車掌手)に声をかけて、広島への電報を依頼します。
ところが、二等車内は閑古鳥を通り越して佐分利さんしか乗客は見られません・・・。
当時の「かもめ」は、京都始発の段階では乗車率がそれほどでもなく、
大阪・三ノ宮からの利用が多かったとのことでした。
確かに運転開始からほどなくして、利用の少ない「ロ」が
昭和28年のダイヤ改正で「ハ」に変更されてしまってもいます。
「かもめ」は、この後に三角線を活用した方向転換が廃止されて、
号車番号のみが先頭から「1」に整えられて運転されるなど、波乱の道をたどります。
ただ、画像では「EF58」に牽引された「かもめ」が、颯爽と淀川鉄橋を通過するシーンが見られて、
特別急行としての風格が十分に感じられました。
3 昭和20〜30年代においては、国鉄は積極的に映画のロケには協力しているのですが、
さすがに「上野」や「東京」などの主要ターミナルでの撮影は、
簡単には許可しなかったようであります。
事実、「点と線」の「4分間のトリック」部分の撮影は、
終電後のフォームにエキストラを総動員して撮影したようですし、
「両国」駅の総武線列車フォームは、レイアウトを活用して
「上野」駅として撮影することがしばしばだったとのこと。
2でご紹介した「彼岸花」の「かもめ」のロケーションも、
予算の関係上で実際の「かもめ」ではなく、所属区が「門タケ」と遠隔地であったことから、
撮影所のあった大船近郊の「国鉄大船工場」内の「ロ」を使って撮影したとの逸話があります。
予算の関係で、地方ロケが不可な場合は「画になる」との理由で、
「御殿場線」や「五日市線」が様々な「地方線区」としてロケに活用されたようです。
このことは別な機会にお話しさせてください。
長々と失礼いたしました。以上、中年客車鉄ちゃんでありました。
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